春のハイシーズン。熊野古道には多くのハイカーが訪れ、それぞれに歩きを楽しんでいます。新緑が美しく、暑くも寒くもない心地よい気候。澄んだ空気の中、鳥のさえずりを聞きながら歩く――そんな様子を見ていると、「自分も歩きたいな」と思わずにはいられません。
そこで、束の間の休日を利用して歩いてきました。今回のルートは「潮見峠越え(下三栖~滝尻王子)」です。
潮見峠「下三栖~覗橋」ルートマップ
多くのハイカーは滝尻王子をスタート地点とし、熊野本宮大社を目指します。さらに足を延ばして熊野那智大社や熊野速玉大社へ向かう方もいます。
今回は、以前から歩いてみたかった「滝尻王子の手前」のルートに挑戦しました。
よい季節にもかかわらず、この日はなんと一人のハイカーにも出会いません。静かな山道をひとり歩きながら、この景色を独り占めしているような贅沢な気分に浸ります。
このルートは、スタート地点となる下三栖へのアクセスがあまり良くないのが難点です。
ただ、地元に暮らしているおかげで土地勘があり、一般にはあまり知られていないルートを使ってスムーズにスタート地点へ向かうことができました。

歩き始めてしばらくは、今も人々が暮らす集落の中を進みます。ところどころに昔の面影が残り、どこか懐かしい雰囲気。ご近所同士の立ち話の声が聞こえてきて、思わず心が和みます。


途中でふと足を止めたのが「珠簾神社(しゅれんじんじゃ)」。
街と自然に溶け込むように佇む、小さく静かな神社です。境内は丁寧に清掃されており、今も地域の人々に大切にされていることが伝わってきます。


樹齢数百年はあろうクスノキの大木や、風化した狛犬の石像を見ていると、長い年月の積み重ねを感じます。そこには、代々受け継がれてきた地域と人のつながりが確かに息づいていました。


境内にある土俵のような場所も印象的で、今も神事として相撲が行われているのかと想像がふくらみます。
こうした小さな神社はガイドブックやウェブではあまり紹介されていませんが、旅の中で出会える大切な風景のひとつだと感じました。

長尾坂から塩見峠にかけては、風に揺れる竹林の静けさが印象的です。
さらに、新緑の季節ならではの若葉や花々が彩りを添え、歩いているだけで心が軽くなっていきます。





この日は天候にも恵まれ、峠からは海を望むこともできました。
山と海を同時に感じられるこの景色は、このルートならではの魅力です。


今回歩いた距離は約14km。急な登りも少なく、全体的に快適に歩くことができました。
にぎやかな人気ルートも魅力的ですが、こうして静かな道を自分のペースで歩く時間もまた、熊野古道の奥深い楽しみのひとつだと改めて感じた一日でした。

