お越しいただいたゲストから、日本旅行の旅程で「直島」を訪れたという話を時々耳にします。
瀬戸内海で生まれ育った私にとって、以前から気になっていた場所でした。そこで、この夏の休暇を利用して行ってきました。
普段は熊野古道の森に囲まれた暮らしを送っていますが、ときには海へ出かけたくなることがあります。森の静けさとはまた違う、瀬戸内海ならではの穏やかな景色に触れたくなったのです。
島々が浮かぶ海を眺めていると、子どもの頃に見慣れた故郷の風景がゆっくりとよみがえってきました。
日本は海に囲まれた国ですが、瀬戸内海には他の海とは違う独特の魅力があります。
海に浮かぶ大小さまざまな島々、穏やかな波、島と島の間を行き交う漁船。無人島もあれば、人々が暮らす島もあり、それぞれに歴史や暮らしがあります。漁港や段々畑、昔ながらの町並みなど、どこか懐かしい風景が今も残っています。

その瀬戸内海に浮かぶ島の中でも、近年「アートの島」として世界的に知られるようになったのが直島です。
3年に一度開催される現代美術の祭典「瀬戸内国際芸術祭」の主要会場の一つでもあり、多くの人がこの島を目指して訪れます。
私は岡山県の宇野港からフェリーで直島へ向かいました。所要時間は約20分。
真夏の8月初旬。夏休みということもあり、子ども連れの家族や海外からの旅行者で船内は賑わっていました。

出航するとすぐに甲板へ。
船が進むにつれて次々と現れる島々や行き交う船を眺めていると、それだけで楽しくなります。日差しは強いものの、海風が心地よく、子どもの頃に見慣れた瀬戸内海の景色がよみがえりました。
私にとって、この景色はまさに原風景の一つです。


宮浦港に到着すると、草間彌生さんの代表作「赤かぼちゃ」が迎えてくれます。
まず向かったのはレンタサイクルショップ。
直島は一周約16kmで、自転車で巡るのにちょうど良い大きさです。主要な美術館へも約15分ほどで移動でき、自分のペースで島全体を楽しめます。
島内は坂道が多いため、私は電動自転車を選びました。


最初に訪れたのは、安藤忠雄氏が設計した「地中美術館」。
島の景観を守るため、美術館はその名のとおり地中に造られています。


建物の内部には自然光が巧みに取り入れられ、コンクリート建築と光が織りなす空間は、まるで別世界にいるようでした。
館内は撮影禁止ですが、それも作品に集中できる理由なのかもしれません。


続いて訪れたのは「杉本博司ギャラリー」。


こちらは撮影可能で、一番印象に残ったのはガラス張りのモダン茶室でした。
茶室は本来、お茶を点て、客を一期一会の心でもてなすための空間です。あえて小さく造ることで人との距離を縮め、余計なものを削ぎ落とし、一服のお茶に心を集中させます。また、自然素材を使うことで、穏やかな時間を演出する工夫もされています。
ところが、この茶室はガラスで造られていました。物理的には小さな空間でありながら、視界は自然へと大きく開かれています。「自然素材を使わなくても、ガラスを通して自然と一体になれるのではないか。」
そんな新しい茶室の考え方に、とても惹かれました。



残念ながら茶室の中に入ることはできませんでしたが、その代わりラウンジで茶室を眺めながらお茶と茶菓子をいただくことができます。
このサービスも入館料に含まれており、とても粋なおもてなしでした。


三か所目は「新直島美術館」。
ここでも数多くの現代アートに触れました。
実は私は、美術館を巡るほど芸術に詳しいわけではありません。
それでも今回は、不思議なくらい夢中になって作品を見ている自分がいました。
島全体に流れる穏やかな空気と、自然や建築、アートが調和した環境が、そういう気持ちにさせてくれたのかもしれません。


美術館だけではなく、自転車で島を巡る時間そのものも、とても楽しいひとときでした。
古い町並みに溶け込むアート作品、古民家を改装したカフェ、浜辺や山、どこまでも穏やかな瀬戸内海の景色。
島全体が一つの美術館のようで、ゆったりとした時間が流れています。
移動時間を読み違え、予定どおりに回れなかった場所もありましたが、そのおかげで予定外の景色や出会いにも恵まれました。



そして、あっという間に帰りのフェリーの時間。
まだ訪れていない場所をたくさん見つけてしまい、一日では到底足りませんでした。
名残惜しさを感じながら、香川県の高松港行きのフェリーに乗ります。
「さようなら、直島。また必ず来よう。」
そう思える、本当に魅力あふれる島でした。

旅のワンポイント
・主要な美術館は事前予約制です。旅行前に予約しておくことをおすすめします。
・繁忙期はレンタサイクルも早い時間に満車になることがあります。こちらも事前予約しておくと安心です。

